SI業界に明日はあるか

現在SI業界は、構造上の問題、人材の不足、ユーザーの要求の高度化、雇用流動化という4つの問題を抱えている。この問題を解決するためには、どうしたらいいのかについて考えてみる。

  • 構造上の問題

SI業界の多重請負構造が、システムの品質の低下、高コスト化をもたらしているのではないかという説。
多重請負構造とは、クライアントからシステム開発を請負う元請けがいて、さらにその下に1次請け、2次請け、、といった下請け会社に外注するという構造のこと。当然、各社マージンを積んだ上で見積もるので、階層が重なるにつれ、コストはかさみ、下に行くほどマージンは低くなる。
また、元請けと下請けの間の溝は深く、最悪ドキュメント、メールなどインダイレクトなコミュニケーションとなる。ゆえに仕様がうまく伝わらず、バグの温床となる。
最近では、この構造が世界規模で拡がっている。オフショア開発である。下請けがインド、中国にまわる。言語的な壁、文化的な壁がさらに状況を悪化させているという話も聞く。

  • 人材の不足

上記のような構造のため、元請けは管理タスク、下請けは開発タスクがメインとなりやすい。したがって、元請けに技術の分かる人間が社内にいなくなる。(かといって、下請けから人材を登用するという考えはあまりない。)
また、IT業界を希望する学生も減っているようだ。それは、上記の構造によってもたらされた悲劇を皆が知ってしまったからだ。長時間労働、低賃金、技術者の地位の低さ、、努力しても報われない世界を希望する人間はいない。(もっとも環境ビジネスやナノテク、遺伝子工学など他の魅力的な業界に奪われているというのもあるだろうが。)
当のこの業界にいる人間たちは、耐えに耐えた結果、疲弊して業界を去っていく。

  • ユーザーの要求の高度化

一方、ユーザーの要求は、変化するビジネスに迅速に対応するシステムを求めている。より短期間で、より低コストなシステムが今まで以上に求められている。結果、無理に受注したプロジェクトは、燃える。燃えるプロジェクトの多くは、あまりにも限られた期間、予算の中でスタートすることが多く、始まる前に勝負がついていると感じる。

  • 雇用流動化

システム開発はプロジェクトという有期のスタイルであるため、必要な時に、必要なスキルを持った人間を、必要なだけ確保するという特徴がある。したがって、人材は他業界と比べても流動的である。必要であれば、社外から人を確保するし、逆にプロジェクトがなければ、社内に留保するしかなくコストになるだけだ。かくして、SIerの人件費は、変動費となり、雇用流動性が生まれる。また、育てるという文化も生まれにくくなる。

以上、SI業界の多重請負構造、ユーザーの要求の高度化により、プロジェクトは燃えやすくなる。わらの家の周りで子供が火遊びをしているようなものだ。そして、実際に燃え尽きてしまったいくつもの失敗例が、SI業界を敬遠する理由、去る理由となり、人材が不足していく。さらにプロジェクトというスタイル上、雇用流動性が高く社内に人が残りにくいく、また人が育ちにくい(育てない)。その人材の不足が、またプロジェクトを悪化させるというデフレスパイラル構造である。

  • SI業界に明日はあるか

このような状況を打開するためには、どうしたらいいのだろうか。今、僕は、新しい技術と新しいマネジメントの両面が欠かせないのではないかと思っている。

新しい技術とは、ビジネスの変化に追随可能な、より柔軟で、俊敏で、再利用性の高いシステムを実現する技術である。それは、生産性、品質の向上、スピードアップをもたらす。具体的には、フレームワークの活用、サービス化(コンポーネント化)がポイントだと思っている。また、Agileなどの新たな方法論の活用も欠かせない。
何よりも重要なのは、このようなアーキテクチャの重要性を理解し、それをリードできる存在である(ここでは、ITアーキテクトと呼ぶ)。彼らには、新しい技術の重要性を啓蒙し、皆をキャッチアップさせ、プロジェクトに定着させる力が求められる。

次に、新しいマネジメント。プロジェクトの成否は、始まる前に分かっていることが多い。スケジュール、スコープ、コストこれらをしっかりと顧客と交渉し、勝算のあるプロジェクトをスタートさせられる存在。そして、いざプロジェクトがスタートした後は、その制約条件の中で、チームをモチベートし、ひとつの目標の達成に導いていく存在。ここまでは、従来のリーダー像。
今必要だと思うのは、リーダーがいなくてもまわる組織、日々学習し進化し続ける組織、メンバーが自立的に動ける組織、こんなを作れる存在である。

一人がすべての存在になる必要なんてない。チームの中にこれらの役割を果たす人間が少しでもいれば、プロジェクトの成功確率は上がる。SIも疲弊せず、楽しくやれる。そんな人材のひとりになりたい。そして、そんな世界を作っていきたい。